
市販の乗用車は、衝突した場合を想定し、乗車中の人のけがを軽減する構造・装置を持っています。これらの安全対策を評価する試験方法は、現実の事故に近いものであること、データの信頼性が高いことなどが求められます。
この試験では、運転席と後席にダミーを乗せた試験車を時速50kmでコンクリー卜製の障壁(バリア)に正面衝突させ、衝突時のダミーの頭部、頚部、胸部、腹部、大腿部に受けた衝撃や室内の変形をもとに、乗員保護性能の度合いを5段階で評価しています。
運転席のダミーについては、2023年度まで男性を模擬したもので試験を実施していましたが、2024年度から小柄な女性に変更して試験を実施しております。助手席のダミーについては、2018年度~2023年度まで小柄な女性で試験を実施(2017年度までは男性)していましたが、2024年度から搭載しないこととなりました。後席のダミーについては、2024年度より新たに小柄な女性を搭載して試験を実施しています。また、2023年度までは試験車を時速55kmで正面衝突させていましたが、2024年度から時速50kmに変更しています。
この衝突試験は、時速50kmの事故を模擬していますが、前面衝突事故のほとんどはこの衝突試験の速度以下で起きています。一方、衝突速度が非常に速い場合、衝突相手が車体の大きいトラックなどの場合、シートベルトをしていない場合などには、この衝突試験による評価は当てはまりません。
また、衝突試験の結果は、試験車の質量が同程度の場合に限り比較が可能です。オフセット前面衝突試験でも同様の考えとなります。
この試験では、従来より実施していた自車乗員の保護性能(Self Protection:SP)に加え、新たな評価として衝突相手車への加害性低減性能(Partner Protection:PP)についても評価しています。
運転席と助手席にダミーを乗せた試験車と質量1,200kgの台車をそれぞれ時速50kmで正面衝突するように走らせ、試験車の運転席側の一部(オーバーラップ率50%)を台車の正面に衝突させます。そのときダミーの頭部、頸部、胸部、腹部、腰部(運転席に限る。)、大腿部、下腿部(運転席に限る。)に受けた衝撃や室内の変形をもとに、SPの度合いを算出します。その上で、台車の減速度や台車に取り付けたアルミハニカムの変形量等からPPの度合いを算出し点数化します。SPからPPの点数を減算して合計点を算出し、その合計点を5段階で評価しています。
新オフセット前面衝突試験では、SPだけではなく、PPも評価項目としているため、高い評価を得るにはPPの確保も求められることになります。
自動車の衝突事故における乗員傷害のうち、前面衝突に続き傷害程度の大きな衝突形態として側面衝突があります。ここでは、原則、運転席にダミーを乗せた静止状態の試験車の運転席側に、質量1,300kg(2017年度までは950kg)の台車を時速55kmで衝突させます。そのときダミーの頭部、胸部、腹部、腰部に受けた衝撃をもとに、乗員保護性能の度合いを5段階で評価しています。
この台車は前面の衝突部分に自動車の前面に見立てた一般的な乗用車と同様な固さを持つアルミハニカムの衝撃吸収部材を取り付けてあります。
また、2008年度から2017年度までは、サイドカーテンエアバッグの装備された車両について、展開状況及び展開範囲についての評価をしていました。これは欧州等で実施されているポールによる側面衝突試験を代替するものと考えられています。
※サイドカーテンエアバッグ(SCA)とは、側面衝突時に乗員の頭部を保護することを目的とするものであり、ルーフレール等に格納され、側面衝突時に気嚢が膨らむことにより、主に車体のAピラーからルーフレールに沿ってCピラー付近まで展開するエアバッグです。
自動車の衝突事故における乗員傷害のうち、後面からの衝突が乗車中の事故形態の中で最も多く、その傷害のほとんどは頚部の傷害となっています。
ここでは、後面衝突を再現できる試験機を用い、衝突された際に発生する衝撃(速度変化、波形等)をダミーを乗せた運転席又は助手席用シートに与えます。そのときの頚部が受ける衝撃をもとに、頚部保護性能の度合いを5段階で評価しています。
この試験は同一質量の自動車が停車中の自動車に時速約36.4kmで衝突した際の衝撃(速度変化時速20.0km)を再現したものです。ただし、この試験における評価と実際の後面衝突事故は、衝突速度が相違する場合、質量の相違する自動車に後面から衝突された場合や乗員の乗車姿勢・体格、座席の調整位置の相違により異なることがあります。
なお、2009年度から2011年度までは、速度変化を時速17.6kmで実施していました。
運転席と後部座席にダミーを乗せた試験車を時速64kmでアルミハニ力ムに運転席側の一部(オーバーラップ率40%)を前面衝突させます。そのときダミーの頭部、頚部、胸部、腹部(後部座席に限る。)、下肢部に受けた衝撃や室内の変形をもとに、乗員保護性能の度合いを5段階で評価しています。
2008年度まではダミーを運転席及び助手席に乗せて試験を実施していましたが、2009年度より助手席に乗せていた男性ダミーを小柄な女性ダミーに変更し、後部座席に乗せて試験を行っています。
フルラップ前面衝突試験が主に乗員を保護する拘束装置(特にエアバッグ、シートベルトなど)を評価するのに適しているのに対し、オフセット前面衝突試験は衝撃を車体の一部で受けるため、ダミーへの衝撃はフルラップ前面衝突に比べ弱いものの車体変形が大きく、変形による乗員への加害性の評価に適しています。
なお、この衝突試験は物理的な換算により、2023年度までのフルラップ前面衝突試験と同様に時速55km程度の事故を模擬していますが、現実の衝突事故のほとんどはこの速度以下で起きています。
それぞれの試験ごとに次に記載する方法により得点を算出し評価します。
頭部、頚部、胸部、腹部(シートベルトによる骨盤の拘束状態の良否)及び大腿部のダミーの傷害値を計測し、点数換算関数を用いて各部位4点満点で点数化します。ステアリング変形量を計測し同様に0~-1点まで点数化します。傷害値の点数からステアリング変形量の点数を引き、調整項目を考慮し、それに事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて各部位ごとの総合点数を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
頭部、頚部、胸部、腹部及び腰部、大腿部及び下腿部のダミーの傷害値を計測し、点数換算関数を用いて各部位4 点満点で点数化します。ステアリング変形量やブレーキペダル変形量を計測し同様に0~-1点まで点数化します。傷害値の点数からステアリング変形量やブレーキペダル変形量の点数を引き、調整項目を考慮し、それに事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて各部位ごとの総合点数を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
試験車とMPDB台車が衝突した際のMPDB台車の減速度の大きさ(OLC)と、MPDB台車に取り付けたバリアの変形量(凸凹の大小)の標準偏差(SD)やバリアへの突き刺さり(BO)がないか最大変形量を計測し、それぞれ点数換算関数を用いて点数化し、その合計点(最大-5点)を算出します。
頭部、胸部、腹部、腰部のダミーの傷害値を計測し、欧米等の自動車アセスメントで用いられている点数換算関数を用いて4点満点で点数化します。この点数に事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて、各部位ごとの総合点を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
ダミー頚部に発生する傷害を評価するため、主に頭部がヘッドレストにコンタクトするまでの間(フェーズ1)に発生する「頚部のS字変形」を評価する傷害指標として頚部傷害基準(Neck Injury Criterion:NIC)、コンタクト後から「最大後屈」まで(フェーズ2)を評価する傷害指標として頚部荷重・モーメントを計測し、欧米等の自動車アセスメントで用いられている点数換算関数を用いて4点満点で点数化します。この点数に事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせた上で点数を加算し、合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
頭部、頚部、胸部、下肢部のダミーの傷害値を計測し、欧米等の自動車アセスメントで用いられている点数換算関数を用いて各部位4点満点で点数化します。車体変形量を計測し同様に0~-1点まで点数化します。傷害値の点数から車体変形量の点数を引き、それに事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて各部位ごとの総合点数を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
頭部、頚部、胸部、腹部(シートベルトによる骨盤の拘束状態の良否)及び下肢部に受けた衝撃を計測し、調整項目を考慮し、欧米等の自動車アセスメントで用いらている点数換算関数を用いて各部位4点満点で点数化します。それに、事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて各部位ごとの総合点数を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
頭部、頚部、胸部、下肢部のダミーの傷害値を計測し、欧米等の自動車アセスメントで用いられている点数換算関数を用いて各部位4点満点で点数化します。車体変形量を計測し同様に0~-1点まで点数化します。傷害値の点数から車体変形量の点数を引き、それに事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて各部位ごとの総合点数を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
「前面衝突後席乗員保護性能評価」として、助手席側後部座席に搭載したダミーの頭部、頚部、胸部、腹部(シートベルトによる骨盤の拘束状態の良否)及び下肢部に受けた衝撃を計測し、調整項目を考慮し、欧米等の自動車アセスメントで用いらている点数換算関数を用いて各部位4点満点で点数化します。それに、事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて各部位ごとの総合点数を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
頭部、胸部、腹部、腰部のダミーの傷害値を計測し、欧米等の自動車アセスメントで用いられている点数換算関数を用いて4点満点で点数化します。この点数に事故実態を踏まえた重み係数を掛け合わせて、各部位ごとの総合点を算出します。そのうえで、各部位の総合点数を加算して合計点を算出します。その合計点を5段階で評価します。
フルラップ前面衝突及び側面衝突試験については、各試験の点数を運転席・後席の区分ごとにそれぞれ5段階でレベル評価し、新オフセット前面衝突試験については、運転席・助手席の得点をそれぞれ合計した自車乗員の保護得点(SP:Self Protection)から、衝突相手車に対する加害性の評価得点(PP:Partner Protection)を減じた総得点を5段階でレベル評価しています。
各自動車の評価の差が明確になるように、現在の水準を勘案し、フルラップ前面衝突及び側面衝突試験では、12点満点中6点未満をレベル1、それ以上から満点までの間を4等分してレベル2(6.00点以上7.50点未満)、レベル3(7.50点以上9.00点未満)、レベル4(9.00点以上10.50点未満)、レベル5(10.50点以上)で表しています。また、新オフセット前面衝突試験では、24点満点中12点未満をレベル1、それ以上から満点までの間を4等分してレベル2(12.00点以上15.00点未満)、レベル3(15.00点以上18.00点未満)、レベル4(18.00点以上21.00点未満)、レベル5(21.00点以上)で表しています。
運転席・助手席の区分ごとに5段階でレベル評価し、各自動車の評価の差が明確になるように、現在市販されている自動車の後面衝突頚部保護性能の水準を勘案し、12点満点中6点未満をレベル1、それ以上から満点までを4等分して、レベル2(6.00点以上7.50点未満)、レベル3(7.50点以上9.00点未満)、レベル4(9.00点以上10.50点未満)、レベル5(10.50点以上)で表示しています。
5段階のレベル表示は、頚部に後遺障害レベルの厳しい傷害を受ける確率(WAD2+リスク)を推定したものです。
この確率は、現在市販されている自動車の後面衝突頚部保護性能の水準を勘案し、6点未満では約82.7%以上、6.00点以上7.50点未満では約70.8%~82.7%程度、7.50点以上9.00点未満では約55.9%~70.8%程度、9.00点以上10.50点未満では約38%~55.9%程度、10.50点以上12.0点までは約15%~38.0%程度となっています。
ただし、この傷害確率は、速度変化時速20.0km(同一質量の自動車が停車中の自動車に時速約36.4kmで衝突した際の衝撃を再現)、かつ、乗員が座席に標準の状態で着座している際の傷害値を基に算出しており、実際の後面衝突事故において、衝突速度が相違する場合、質量の相違する自動車が後突した場合や乗員の乗車姿勢・体格、座席の調整位置の相違により異なることがありますので、ご注意下さい。
※WADとはWhiplash Associated Disordersの略をいう。
各試験の点数を運転席・助手席・後席の区分ごとにそれぞれ5段階でレベル評価し、各自動車の評価の差が明確になるように、現在の水準を勘案し、12点満点中6点未満をレベル1、それ以上から満点までの間を4等分してレベル2(6.00点以上7.50点未満)、レベル3(7.50点以上9.00点未満)、レベル4(9.00点以上10.50点未満)レベル5(10.50点以上)で表示しています。
2011年度までは、同一質量の自動車が停車中の自動車に時速約32kmで衝突した際の衝撃(速度変化時速17.6km)を再現したものです。
運転席・助手席の区分ごとに4段階の色分け及び12点満点中の得点を表しています。さらに、各自動車の評価の差が明確になるように、現在市販されている自動車の後面衝突頚部保護性能の水準を勘案し、12点満点中5点未満をオレンジ色、それ以上から満点までの間を3分割して黄色(5点以上8点未満)、薄緑色(8点以上10点未満)、緑色(10点以上)で表示しています。
2008年度より、側面衝突試験において、サイドカーテンエアバッグ付車両についての評価試験を開始しました。