機関誌「ほほえみ」バックナンバー
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脊髄損傷における自己管理 〜日常生活のために必要な知識〜

脊髄損傷の方へ 情報コーナーA

 前号では、「脊髄損傷における自己管理 〜日常生活のために必要な知識〜」と題し、合併症の管理のうち、1.皮膚の管理、2.排尿の管理、3.排便の管理を掲載いたしました。
 本号も引き続き、独立行政法人労働者健康福祉機構 吉備高原医療リハビリテーションセンターの先生方に執筆していただいた原稿を連載いたします。
 本号は、第2回目として、合併症の管理のうち、4.体温の調節、5.脊髄損傷の疼痛、6.起立性低血圧と自律神経過反射を紹介いたします。(赤い字の部分です。)
 皆さまのご参考になれば幸いです。
 なお、本記事の内容でご不明な点等ありましたら、ほほえみ編集委員会事務局までお問い合わせください。

脊髄損傷における自己管理
〜日常生活のために必要な知識〜

U.合併症の管理

4 体温の調節 (杉山宏行 医師)

 四肢麻痺の方や対麻痺ついまひでも麻痺のレベルが高い方は、外界の温度の変化に対して体温調節がしにくい状態になっています。これは主に麻痺した部分の皮膚が汗をかきにくくなることによって、発汗による体温調節がうまくできなくなり、体のなかに熱がこもりやすくなっているからです。夏の暑い日など気温が高いところに長時間居たり、直射日光にあたっていると急に体温が上がることがあります。体温が38℃以上になることもあり、この状態を『うつ熱』といいます。
  熱のわりには元気で食欲もあり熱以外の症状があまりないことが多いですが、症状がある場合は発熱に加えて、めまい、ふらつき、吐き気、頭痛、ふるえ、ひどいときには意識がもうろうとしてくる場合もあります。
 症状を自覚した場合は体温を計り、涼しいところに移動し、衣服をゆるめ、冷水や氷水で体を冷やして水分を補給して下さい。氷枕を使う場合は、直接皮膚にあてずにタオル等で包み脇の下・鼠蹊部そけいぶ(太ももの付け根)にあてて下さい。症状がなくなるまで涼しいところに居ましょう。このような対処を行っても高体温が続く場合は、他の病気のこともありますので、病院に連絡して受診しましょう。
 外界の温度変化に対して体の反応する能力が低下していることを意識して生活しましょう。暑い日は普段よりも多めに水分をとるようにし、屋外では涼しい日陰で過ごし、屋内ではクーラー、扇風機などを上手に使って熱が体のなかにこもらないように気を付けて下さい。反対に温度が低すぎると、体がこわばって動きにくく感じたり、麻痺している部分のしびれや痛みを普段より強く感じたりすることも経験すると思います。住環境、暖冷房器具、衣服、寝具を工夫して上手に使いましょう。
 ご自分の健康管理と合併症の早期発見のためにも1日1回は体温を計りましょう。

参考文献

コ弘昭博:脊髄損傷-日常生活における自己管理のすすめ(第2版), 医学書院, 2001

5. 脊髄損傷の疼痛 (古澤一成 医師)

はじめに

 脊髄損傷における疼痛は、しばしば、リハビリテーション(リハ)治療や日常生活にも支障をきたす重大な問題で、お困りの方も多いと思います。本稿では、疼痛に関する一般的な知識と、特に「麻痺域の疼痛」の治療について述べます。

疼痛の種類(1)

 脊髄損傷の疼痛の分類は、国際疼痛学会によるものがありますが、ここでは臨床的な観点からみた主な疼痛をあげておきます。現在の疼痛がどれに当たるのか、しっかり見定めることが重要です。疼痛のある方は、かかりつけ医に相談してみてください。

(1)脊椎の不安定性による疼痛
 損傷部位の脊椎の関節や靱帯、椎間板、筋肉に起因する痛み。脊椎の固定をしている金具が原因になっていることもありますので、レントゲン検査でのチェックが必要です。

(2)上肢の痛み
 車椅子駆動や乗り移りの動作などによって、肩を中心とした箇所の疼痛を生じます。多くは使いすぎや誤った使い方によって生じますので、休めたり、消炎鎮痛剤を服用したりして治療します。

(3)筋肉の痙縮による痛み
 脊髄損傷では筋肉の緊張の亢進がみられます。これを痙性もしくは痙縮といいます。感覚が残存している方では、痙縮による筋肉の収縮の際に痛みを伴うことがあります。治療は、筋肉の緊張を押さえるような薬(バクロフェンなど)を服用します。

(4)脊髄空洞症による痛み
 受傷して数ヶ月〜数年後に脊髄空洞症を生じることがあります。今までと比べて、麻痺のレベルの上昇を伴う疼痛が出現した際はかかりつけ医に相談して下さい。上肢などの痛み(焼け付くような痛みが多い)が唯一の症状のこともありますので注意が必要です。MRIにて診断は可能です。

(5)境界領域の疼痛
 麻痺域との境界領域で生じる痛みで、帯状に両側性の形をとります。

(6)麻痺域の疼痛
 自発的なものでは、ジリジリ、ビリビリと表現される異常知覚、周期的もしくは発作的にくる電撃痛や乱切痛、鈍い持続的な知覚鈍麻感などがあります。また、誘発痛では本来なら刺激とならない軽度な刺激で引き起こされる知覚過敏などがあります。麻痺域の疼痛の発生機序はまだ十分に解明されておらず、しばしば難治性です。

麻痺域の疼痛の治療

 まず、いかなる疼痛もその原因が何かを調べる必要があります。「脊髄損傷を始め、神経のケガには痛みが付きものだから」と、放置しないようにして下さい。「脊髄損傷後の麻痺域の疼痛」は、「脊髄損傷」以外に身体のいずれにも原因がないときに下される診断です。また、「麻痺域の疼痛」であっても痛みの強度や性質が変わって来たときには、身体が「変調」を訴えていることもあります。かかりつけ医に相談し健康チェックをしてもらいましょう。

(1)保存的治療(手術をしない治療のことです)
1) かかりつけ医など医療者との対話
 脊髄損傷に伴う痛みが神経の損傷によるとはいえ、痛みは感情体験ですから、慢性疼痛の発現には少なからず心理的な側面が関与しています。「痛みは治らない」と諦めて一人で悩まず、誰かに相談してみて下さい。たった一つの温かい言葉で痛みが変わることもあります。

2) 趣味や余暇活動
 次に述べるリハ治療や薬物治療、手術的治療のどれも決め手となるものはありません。したがって、身体に侵襲のない治療で解決するのがベストです。疼痛で苦労されている方はお気づきかと思いますが、楽しいことをして過ごしている間は、一時的にせよ痛みを忘れていたり、軽くなっていたりすることがあります。前に述べましたように心理的な側面が関与しているからです。是非、ご自分の趣味を見つけて下さい。特にスポーツがおすすめです。スポーツの中には、運動中にベータ・エンドルフィンなどの痛みを和らげる物質が脳内で産生されることが証明されているものもあります。

3) リハ治療
 リハ治療には、温熱療法や電気刺激などの物理療法、運動療法、作業療法などがあります。脊髄損傷で知覚の障害のある方は、温熱による熱傷に注意して下さい。リハ治療ではありませんが、針灸の治療を受ける方も同様に熱傷に注意が必要です。

4) 薬物療法
 臨床の場では、脊髄損傷の麻痺域の痛みに対しては、非ステロイド性の抗炎症薬(いわゆる痛み止め)や抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬が用いられています。しかし、それに対してエビデンス(効果があることを示す証拠、検証結果)がある薬物は、抗てんかん薬の「ガバペンチン」のみでしょう(2)。海外では、多くの研究報告から脊髄損傷の麻痺域の痛みに対しては、これが第一選択薬の一つにあげられています。しかし、本邦ではまだ、痛みに対しては保険適応がなく、類似の薬物が治験をされている段階です。
 多くの集団でみると効果が少ない他の薬物も、人によっては効く場合もありますので、他に禁忌事項がなければ、かかりつけの医師に相談し、試してみる価値はあります。ただ、しばらく使用して効果がなければ中止して下さい。痛み止めなどは漫然と使用すると消化管の潰瘍を生じることがあります。特に胃や十二指腸の症状が自覚しにくい頸髄損傷の完全麻痺の方は注意が必要です。
 また、時にモルヒネなどの麻薬鎮痛薬を服用している方もいますが、おすすめできません。悪性腫瘍などの患者さんには用いられますが、前途ある脊髄損傷の方が、これからも長い人生を痛みと付き合いながら生きるには絶対に不向きです。

(2)手術的治療
 脊髄損傷の痛みに対する手術的治療は、(視床破壊術、外側脊髄視床路切截術、脊髄後根遮断術、脊髄後根侵入分遮断術、脊髄硬膜外刺激などの手法が報告されていますが)一時期に比べてされなくなった印象があります。手術による身体への侵襲に対して、その治療効果が確実でないためでしょう。

おわりに

 皆さんが一番お困りの「脊髄損傷後の麻痺域の疼痛」については、残念ながら、万人に有効な治療法はありません。ただ、私の回りには、気分転換をしながら上手に痛みとおつきあいをしている方もたくさんおられます。本稿を読まれて、少しでも痛みを緩和してくれる対処方法が見つかれば幸いです。

【参考文献】

(1) 横山修:
臨床にいかすリハビリテーション診断学.脊髄損傷の疼痛.臨床リハ15: 1052-1056, 2006.
(2) 古澤一成、杉山宏行、池田篤志、コ弘昭博.脊髄損傷者の麻痺域の疼痛に対するガバペンチンの使用経験.日本脊髄障害医学会雑誌21巻1号P126-127. 2007.

6. 起立性低血圧と自律神経過反射 (古澤一成 医師)

はじめに

 臥位(横になった状態)から起立したときに血圧が低下し、めまいや頭痛、時に失神などの症状を呈することがあります。これを「起立性低血圧」といいます。脊髄損傷者における起立性低血圧の発生頻度は高く、急性期のリハビリテーション(リハ)医療においてその診断がつく方は74%にも及ぶとする報告(1)があります。また、慢性期にあっても臥床などが続くと生じやすく、多くの脊髄損傷者が克服しなければならない合併症の1つです。
 一方、自律神経過反射は、起立性低血圧とは逆に発作的に血圧が上昇するもので、同じく自律神経系の障害から生じます。起立性低血圧と比べて、その存在や正確な対処方法を知らない方が多い合併症です。起立性低血圧と同様に、是非、本稿で知識を整理して下さい。

起立性低血圧
脊髄損傷者における起立性低血圧のメカニズム

 脊髄損傷者における起立性低血圧の正確な発生機序は明らかではありませんが(2)、以下のような点で、健常者に比べて生じやすいことがいわれています。

(1)交感神経系の障害
 第5〜12胸髄レベル由来の神経が内臓の血管の神経を支配しています。第5, 6胸髄レベルより上位の脊髄でケガをされた方は、これが障害され内臓の血管の収縮が不十分になります。起立時には重力によって腹腔内臓器の静脈系へ血液の大規模な貯留を生じることになります(腹腔内臓器の血液は豊富です)。そのため、静脈還流(血液が心臓に戻ること)が減少し、心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液量)、収縮期血圧の低下を招きます。

(2)骨格筋のポンプ作用の欠如
 通常、立っているときは下肢の筋肉が持続的に活動しています。これらは静脈を圧迫し血液を心臓に戻すためのポンプとして働くため、起立した際の静脈還流を維持する上で重要です。脊髄損傷者においては、麻痺によって骨格筋のポンプ作用が欠如しており、起立時の静脈還流の減少、心拍出量、血圧の低下をもたらします(2)

(3)Cardiovascular deconditioning(CD:心臓血管系のデコンディショニング)
 CDとは、身体を動かさなかったりした状態が続くことで起こる心臓や血管系の機能低下をいいます。長期の臥床や無重力の状態によって生じますが、脊髄損傷者も臥床する機会が多ければその可能性はあります。循環血液量の減少、心機能の低下、圧受容器の反応性の低下、筋交感神経活動の障害などが起こり起立性低血圧を招くとされています(3)

起立性低血圧の治療

(1)薬物以外の治療
 起立性低血圧の管理は、まずは薬物以外の治療で行います(2)

1) 食事を含めた日常生活上の注意
 充分な水分と塩分を摂取することで体の血液量を維持することは、起立性低血圧の治療に欠かせません(4)。血液量が減少しただけで血圧は低下します。ただし、心臓に疾患のある方は、水分や塩分の取りすぎは、それらを悪化させることがありますので注意が必要です。
 また、水分と塩分の摂取のみならず、アルコールなどの利尿作用のあるものを控えるべきです(2)。アルコールには血管拡張作用もあり起立性低血圧を助長します(2)
 水分の摂取については体の血液量を増やすのとは別に、500ml程度の飲水で、交感神経系を介した急性の反応として、5分程度で血圧を上昇させる効果があることも報告されています(5)
 脊髄損傷に限ったことではありませんが、食後性低血圧の有無を把握しておく必要があります。食後性低血圧は起立による低血圧を助長するため、もし、それが存在すれば食後2時間は比較的安静を保つように日常生活の時間などを工夫する必要があります(6)。食後性低血圧の発生のメカニズムは明確にはされていませんが、食事に伴う腹部臓器に血液が貯留することで生じるとされ、その予防には大食を避け、少量かつ頻回の食事摂取を心がけることが大切です(6)。また、食事の際のカフェインの摂取も推奨されています(6)
 日常生活の動作については、起立性低血圧を有する方が臥位から座位になるときなどは、ゆっくりとするのが基本です。特に起立性低血圧が起こりやすい朝にはそのような配慮が必要になります。また、脊髄損傷者においては、夜間、仰臥位になると利尿が生じ、その結果、朝の起床時には循環血液量が減少する特徴があります。これに対しては、夜間、頭部を10-30度挙上し就寝することで改善するとした報告があります(5, 7)
 日頃、服用している薬剤で起立性低血圧を生じる可能性のあるものがないか、かかりつけの医師に相談し、チェックしてください。脊髄損傷者において使用されるものの中では、尿路系に対するαブロッカー、痛みや精神的な問題に対する抗うつ剤、痙性に対する筋弛緩剤などが起立性低血圧を生じる可能性があります。抗うつ剤では、特に三環系抗うつ剤に、その作用を発揮するものが多いようです。他、一般的には、利尿剤、降圧剤、狭心症に対する薬剤などが起立性低血圧の原因になり得ます。

2) リハビリテーション
@理学療法
 脊髄損傷者における起立性低血圧が改善するメカニズムは明確ではありませんが、 a) 血管壁受容体の感受性の亢進、b) 骨格筋の緊張の亢進、c) 脊髄レベルでの姿勢反射の回復、d) レニン−アンギオテンシン系の適応などがあげられています(8)
 理学療法については、ベッドのギャッジアップ機能を用いた座位訓練や斜面起立台を用いた起立訓練を徐々にすすめ、起立性低血圧に対する代償能力を獲得していくことが多くの論文で紹介されています(6)。実際に、後述する補装具と組み合わせながら行うのが唯一の方法であるように思います。ただ、訓練の時間だけでは、その効果を得ることが難しく、日中のその他の時間をいかに臥床せずに過ごすかが大きなポイントです。

A補装具等
 腹帯や四肢の弾性ストッキングは、下肢や内臓への血液貯留を軽減することで、起立性低血圧を治療・予防するものです。ただし、夜間の就寝中はこれらを除去しておかないと、逆に利尿をもたらし起立性低血圧の悪化を招きます。

(2)薬物治療
 薬物治療は通常、薬物以外の治療が無効の場合に行われます。ただ、その目指すところは薬物以外の治療と同じで、循環血液量の維持・増大と静脈への貯留防止です(9)。参考までに海外の報告(4)から主な薬物を提示しておきます(表)。

表 起立性低血圧の薬物治療(文献4より改変)

第1選択
酢酸フルドロコルチゾン(フロリネフ)
ミドドリン(メトリジン)およびその他の交感神経刺激薬

第2選択
バソプレシンアナログ製剤
エリスロポイエチン
カフェイン

第3の選択または治験段階のもの
βブロッカー
クロニジン
ヨヒンピン
シクロオキシゲナーゼ阻害薬
ソマトスタチン
ジヒドロエルゴタミン
Dihydroxyphenylserine(DOPS)
ドーパミン拮抗薬
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

 

自律神経過反射
自律神経過反射の病態、原因(図1)(10)

 自律神経過反射は、第5, 6胸髄より上位の脊髄損傷者にみられる自律神経障害です。麻痺域への何らかの刺激は感覚神経を介して脊髄に達した後、脊髄内を上向し交感神経を刺激します(11)。大量の血管を有する腹部内臓器を支配する交感神経は第5, 6胸髄〜第2腰髄の髄節から出ますので、第5, 6胸髄より上位の損傷では、そのレベルで脳にある自律神経中枢からの制御が遮断されるため、腹部内臓器を支配する交感神経の過剰な興奮を生じます。その結果、腹部内臓の血管が収縮して著明な血圧の上昇を誘発します(11)
 最も多い原因は、膀胱や直腸などの骨盤臓器に関わるものです(12)。それ以外には、褥瘡などの皮膚のトラブル、性交、妊娠・分娩、その他の消化管の病変、骨折などがあげられ、麻痺域の中空臓器の収縮・伸展あるいは疼痛の受容器への刺激は誘因となり得ます(12)。ただ、頸髄損傷者において呼吸器系の病変が直接の原因で生じた自律神経過反射の報告はなく(12)、さらに上肢の筋肉への電気刺激でも自律神経過反射は誘発されない(12)という事実から、麻痺域でも特に第6胸髄以下の刺激が自律神経過反射を引き起こすようです(12)
 発症時期に関しては、起立性低血圧が受傷後早期に生じやすいのに対して、自律神経過反射は受傷後、3〜4ヶ月で初めて起こることが多いようです。

図1
図1.自律神経過反射の発生のメカニズム(文献10より一部改変)

自律神経過反射の頻度

 自律神経過反射の頻度は8.9〜90%(13)と報告によって様々で、それは明確な定義がないことや評価時期が異なることなどによります。

自律神経過反射の症状

 先に述べましたように、血圧の上昇とそれにともなう自覚的なものが主な症状です。自覚症状には、頭痛や発汗、悪寒、鳥肌、顔面の紅潮などがあります。血圧の上昇がひどいと、稀ですが脳出血などの可能性もあります。
 著明な血圧の上昇があるにもかかわらず自覚症状を認めない、いわゆる“silentな自律神経過反射”が存在します(14)(15)。特に摘便などで排便の管理をしている方は、その際に血圧を測定してみて下さい。図2(16)に、頸髄損傷者の方の排便中の血圧の変化を示します。摘便の操作は、血圧の上昇を生じやすいことが分かります。

図2
図2.排便中の収縮期血圧の変化(文献16より一部改変)
**P<0.01、*P<0.05:安静臥位時に比して、##P<0.01、#P<0.05:コントロールに比して

自律神経過反射の治療

(1)予防
 自律神経過反射は、それを誘発する原因が必ずあります。したがって、自律神経過反射は予防が大切で、その内容は「脊髄損傷における合併症の管理」そのものです。原因となりがちな膀胱直腸について言えば、適切な排尿・排便管理方法を選択しそれを実践していくこと、運動や食事も含めた生活習慣を整えていくことがそれにあたります。

(2)緊急時の対応
 自律神経過反射による血圧の上昇は原因を除去しないかぎり持続し、脳出血、痙攣発作、不整脈などの生命に危険を及ぼす病態を引き起こす可能性があります(12)。したがって、いったん自律神経過反射が生じたら、迅速に原因を究明し除去する必要があります。ここではParalyzed Veterans of America(米国退役軍人マヒ者協会)で推奨されている治療の手順を紹介します(11)(図3-1)(図3-2)。

図3-1
図3-1.自律神経過反射の治療(文献11より一部改変)

図3-2
図3-2.自律神経過反射の治療(文献11より一部改変)

【1】 第6胸髄あるいはそれより高位の脊髄損傷者において、自律神経過反射の自覚症状が出現したら、まず血圧を測定する。
【2】 血圧の上昇がなければ、必要に応じて他科にコンサルタントする。
【3】 血圧が上昇しており、臥位の姿勢になっていたら直ちに座位をとらす。
【4】 衣服や装具を緩める。
【5】 血圧と脈拍を頻回にモニターする。
【6】 迅速に誘因を調べる。特に尿路系から。
【7】 もし、尿道留置カテーテルが使用されていなければカテーテルを留置する。
【8】 カテーテルを挿入する前に2%のリドカインゼリーを尿道に注入し、数分待つ。
【9】 尿道留置カテーテルが使用されている場合は、カテーテルにねじれや折れ、狭窄、閉塞がないかをチェックする。もし問題が見つかれば即座に対応する。
【10】 カテーテルの流れが悪いようならば、体温程度に暖めた少量の生理食塩水でやさしく膀胱洗浄する。膀胱への手圧叩打を加えてはならない。
【11】 カテーテルからの尿の排出があり、依然として血圧が上昇したままならばステップ【16】に進む。
【12】 カテーテルからの尿の排出がなく、血圧も上昇したままならばカテーテルを抜いて交換する。
【13】 カテーテルを交換する前には、2%のリドカインゼリーを尿道に注入し、数分待つ。
【14】 通常のカテーテルの交換が出来ない場合は、特別なカテーテルの使用を考慮するか泌尿器科の医師にコンサルトするべきである。
【15】 膀胱からの尿の排出中は血圧をモニターする。
【16】 尿の排出後も血圧の上昇などの症状が続くようであれば、便がたまっていないかを疑う。
【17】 150mmHg以上の収縮期血圧が続くようならば、薬物療法を考慮する。
降圧剤は即効性で短時間作用型のものを使用する。通常NifedipineとNitratesが使われる。
【18】 低血圧にならないようにモニターし、重度な低血圧を生じた場合は臥位にして下肢を挙上する。低血圧に対して通常それ以上の処置を必要とすることはないが、もし適応があれば輸液や昇圧剤の処置を考慮する。
【19】 便がたまっていることが疑われたなら、以下の手法を用いて直腸の便をチェックする。2%のリドカインゼリーのような局所麻酔薬を直腸に十分注入する。5分ほど待って、グローブをつけた指で直腸を確認する。もし、便があればやさしく排出する。その際、自律神経過反射が悪化するようであれば摘便操作は中止し、局所麻酔薬を追加してからおおよそ20分後に便の存在を再確認する。
【20】 自律神経過反射が改善後も少なくとも2時間、再発がないか自覚症状と血圧をモニターする。原因が除去されたためでなく、薬物によって高血圧と自覚症状が軽快している可能性があるからである。
【21】 もし、以上のような治療によっても改善しない場合、または、自律神経過反射の原因を同定できない場合は、自律神経過反射の原因の精査と血圧の管理のために入院させる。
【22】 自律神経過反射に関するエピソードをカルテに残しておく。どのような症状で発症したか、治療経過、特に治療に対する血圧や脈拍の反応について記録しておく必要がある。
【23】 コンディションが落ち着いたならば、自律神経過反射の原因について本人や家族、介護者などとともにもう一度調査し、今後自律神経過反射が生じた時に重大な事態に陥らないための治療計画を立てておく。当然、そのなかには患者教育プログラムも含まれる。患者には、緊急時に役立つように自律神経過反射の治療のための解説書を退院時に渡しておく必要がある。

おわりに

 最近の医療事情により、脊髄損傷に精通していない病院や施設がその管理を引き継ぐことも増えています。そのような所では、合併症、特に自律神経過反射などの知識が十分ではありません。また、一般病院での入院期間の短縮化によって、自律神経過反射を退院後に初めて経験する可能性もあります。ご本人や御家族も脊髄損傷に関する情報の収集に努め、合併症を適切に管理して下さい。

【参考文献】

(1) Illman A et al: The prevalence of orthostatic hypotension during physiotherapy treatment in patients with an acute spinal cord injury. Spinal Cord 38: 741-747, 2000.
(2) Claydon VE et al: Orthostatic hypotension following spinal cord injury: understanding clinical pathophysiology. Spinal Cord 44: 341-351, 2006.
(3) 中村 健:廃用症候群を吟味する−無動・不動、低活動、臥床の影響の理解と予防
−臥床による影響.Med Reha 10 (72): 19-25, 2006.
(4) Freeman R et al: Treatment of orthostatic hypotension. Seminars in Neurology 23 (4) : 435-442, 2003.
(5) Jordan J et al: The pressor response to water drinking in humans. A sympathetic reflex? Circulation 101: 504-509, 2000.
(6) 井上和宏、緒方 甫:廃用症候群へのアプローチ.起立性低血圧.総合リハ19: 787-793, 1991.
(7) Krassioukov A et al: The clinical problems in cardiovascular control following spinal cord injury: an overview. Progress in Brain Research 152: 223-229, 2006.
(8) Teasell RW et al: Cardiovascular consequences of loss of supraspinal control of the sympathetic nervous system after spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil 81: 506-516, 2000.
(9) Oldenburg O et al: Treatment of orthostatic hypotension. Curr Opin Pharmacol 2: 740-747, 2002.
(10) Michael B, et al: Phenoxybenzamine in neurogenic bladder dysfunction after spinal cord injury. U. Autonomic dysre
(11) Phillips WT, et al: Clinical manifestations in the chronic stage of SCI. Current Problems in Cardiology, 23: 656-675, 1998.
(12) Karlsson AK. Autonomic dysreflexia. Spinal Cord, 37: 383-391,1999.
(13) Teasell RW, et al: Cardiovascular consequences of loss of supraspinal control of the sympathetic nervous system after spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil, 81: 506-516, 2000.
(14) Linsenmeyer TA, et al: Silent autonomic dysreflexia during voiding in men with spinal cord injuries. J Urol, 155: 519-522, 1996.
(15) Kirshblum SC, et al: Silent autonomic dysreflexia during a routine bowel program in persons with spinal cord injury: a preliminary study. Arch Phys Med Rehabil, 83: 1774-1776, 2002.
(16) Kazunari Furusawa, Hiroyuki Sugiyama, Atsushi Ikeda, Akihiro Tokuhiro, Hiroko Koyoshi, Masanori Takahashi, and Fumihiro Tajima. Autonomic dysreflexia during a bowel program in patients with cervical spinal cord injury. Acta Med Okayama 2007; 61: 221-227
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